プトレマイオスの占星術

國分秀星 Q.H.P.

プトレマイオスは占星術師ではなかったと言ったら驚くだろうか。 たしかにこれまでに出版された占星術のテキストのなかで『テトラビブロス』ほどのロングセラーはないし、占星術に興味のない人ですらプトレマイオスの名前は知っている。 しかし、これは古代ギリシア・ローマの占星術を様々な角度から研究してきた私の結論である。

まず、プトレマイオスを含むギリシア・ローマのテキストを、時代を追って読んでみると、『テトラビブロス』の時代になって基底にある理論にやや変化があることがわかる。 大筋では同じなのだが、細かい部分でプトレマイオスはそれまでにあった占星術の理論とは異なる事柄を述べている。

この事実だけを考えるなら、プトレマイオスの時代に占星術が様変わりしたと言えなくもないのだが、『テトラビブロス』より後の時代のテキストを読むと、また『テトラビブロス』以前の理論に戻っているのである。 これはドロセウス(1世紀)、プトレマイオス(2世紀)、ファーミカス(4世紀)の3冊を比較するだけで確認できる。 さらにベッティウス・バレンスやポーラス・アレキサンドリヌス(パウロス)とも比較すれば、『テトラビブロス』のみが特殊であることがよりはっきりとするだろう。

またプトレマイオスは、他の占星術師と比べて、以下の事柄に関する説明を省略している。

なぜプトレマイオスだけが異なる理論を唱え、当時の占星術テキストなら当然あるべき重要な事柄をその著書から省略したのだろうか。

『テトラビブロス』Book IIIの第1節で、プトレマイオスは次のように述べている。 (現代日本語にするため多少意訳したが原文の意図は正確に伝えているはずだ。)

古典的な未来予知の技法は、多岐にわたり、ほとんど無限とも言える、すべての天体の組み合わせを考慮する必要があるため、そのすべてを説明することはできない。(中略) さらに、その使用方法や実践が難しいものについては説明を省略する。

プトレマイオスが占星術師だったとしたら、彼よりも前の時代の占星術師たちがそうしたように、きちんと説明すればいいのだ。 省略したのは『テトラビブロス』が初心者向けだったからという説もあるが、私は、単にプトレマイオス自身が他人に説明できるほど占星術を理解していなかったためだと考える。

たとえば、"The Crime of Cladius Ptolemy"(Johns Hopkins University Press)においてロバート・ニュートンは、『アルマゲスト』にある恒星のリストはプトレマイオス自身の観測によるものではなく、ヒッパルコスのカタログに記載された恒星の位置に歳差を考慮した一定の度数を足しただけのものであることを指摘している。 これはプトレマイオスが天文学者ですらなかったことを示唆するものである。 (事実、ロバート・ニュートンはそう断言している。)

また、プトレマイオスは占星術や天文学だけでなく、地理学や光学についての著書もある。 プトレマイオスが博学な人だったと言えばそれまでだが、プトレマイオスは単なる「科学ライター」であり、『テトラビブロス』は占星術師ではないライターが自身の見解を加えつつ、一般大衆に占星術を説明したものと見る方がぴったりとくる。

クォリファイング・ホラリー・ディプロマ・コースで『テトラビブロス』をテキストとして取り上げているのは、占星術の歴史やパートオブフォーチューンに関するレッスンにおいてであり、簡単に手に入る本であり、ウィリアム・リリーが頻繁に引用しているからである。 しかしながら、「プトレマイオスの説明はすべてにおいて極端に短い」とリリーが嘆いているように、物足りなさがあるのは否めない。 『テトラビブロス』を読んだだけで古代ギリシア占星術の全貌を知ることも、古典占星術について語ることもできないのである。

1999年2月
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