ホラリーに関する誤解

國分秀星 Q.H.P.

コースの生徒を指導したり、このホームページを訪れた人たちからのメールを読んでいるうちに、ホラリーに関して事実と異なる説が流布しているのを知って驚いた。いろいろと聞きただしてみると、その原因は石川源晃著『応用・占星学入門』(平河出版社、ISBN:4-89203-247-6)にあることがわかった。実際にこの本を図書館で借りて読んでみると、間違いの度合いがはなはだしいので、日本における正しい西洋占星術の普及のために本稿を記すことにした。なお、これは占い師として西洋占星術を学び、クォリファイングホラリーディプロマコースのチューターとして生徒を指導する立場からのposition paperであり、それ以外のものではないことをお断りしておく。
以下に主だったものを列挙する。

ホラリーはウィリアム・リリーが考案したものではない
石川氏は、リリーは依頼者の生年月日が信用できないのでホラリーを考案したと述べているが、これは違う。リリーが偉大であるが故の誤解だろうと想像するが、ホラリーは2000年以上も前から使われてきたテクニックであり、リリーの時代まではホラリーで占うことがごく普通だったのである。
たとえば、ノイゲバウエルとバン・ホイゼンの著作"Greek Horoscopes"の144〜146ページにかけて、パルチャスによる占断例が載っている。これは船の安否を占ったもので、天体の位置から逆算すると、西暦479年のものだという。また、ドロセウスが著した"Carmen Astrologicum"にはホラリーについての解説が載っているが、これなどは1世紀に書かれたものであり、その冒頭には「先人たちの書を元に書いた」という記述があるから、少なくとも紀元前後には既にホラリーは使われていたと言える。

ホラリーチャートの有効期間は3ヶ月ではない
チャートから導き出される結論は3ヶ月しか有効ではないと石川氏は書いているが、これはおかしい。3ヶ月後にしろ、1年後にしろ、占断と異なる結果が出たとしたら、それは占った人間がチャートを読み間違えたのであって、時間が経過したからといって同じ問題を再度占うべきではない。
また、石川氏の文章が明瞭でないため、ホラリーチャートは3ヶ月以上先のことは表示していないと勘違いしている読者もいる。私がこれまでやってきた経験からすると、半年や1年先のことはごく当たり前に表示されているし、中には3年先のことが表示されているものまであった。実際にホラリーを使う占星術師たちに聞いてみても、やはり口をそろえて同じことを言う。また、もし3ヶ月たって依頼者が当初と異なる選択をするとしたら、それもチャートに表示されているはずである。(例:プロヒビション、リフラネーションなど)

ホラリーもネイタルも読み方は同じである
ホラリーはネイタル・マンデンと違う読み方をするという箇所は、ホラリーに今でもわずかながら含まれている伝統的な技法に特異な部分を見いだしているが故の記述であると私は解釈する。
たしかに、ハウスや天体が意味するものは、マンデン、ホラリー、ネイタルで使い分ける必要がある。しかし、これらは占う対象が異なるだけであって、チャートを読むための基本となる部分は共通しているのだ。たとえば、アンソニー・ルイスがロサンゼルス大地震に関連するチャートにおいて水星によるトランスレーションの効果を指摘しているのはその良い例だろう。 また、プトレマイオスの"Tetrabiblos"のBook IIIはネイタルについて書かれているが、その中に、明らかに元はホラリーについての記述だったものをネイタルとして書き改められた箇所がある。
したがって、石川氏が言おうとしているのは、伝統的な技法とモダンな技法の差異であって、ホラリーとネイタルの違いではないことに留意するべきだ。

逆行しているからといって家出人は戻ってくるとは限らない
ミューチュアルセパレーションなら家出人は戻ってこないのだから、逆行イコール戻る表示とするのは石川氏の説明不足である。氏自身が、1個の法則ですべてが解決するような万能なものはないと述べているのと矛盾している。

名人芸?
物語的な描写は、たしかに初心者は手を出すべきではないと思う。しかし、ホラリーではイエス/ノーしか見てはいけない、あるいは見ることができないとしたら、誰が見料を払って占星術師に依頼するだろうか。イエス/ノーを出すだけなら占星術など何も知らなくても50%の確率で的中するのであり、あまりにもたやすいことである。つまり、50%ではプロとはいえないことになる。
石川氏が名人芸の例としてあげるアイビー・ジェイコブスンの"Simplified Horary Astrology"は私の座右の書だが、具体的にどういった部分が名人芸なのかわからない。ジェイコブスンはちゃんとやり方を説明しているし、載っている占断例もその説明の範囲をでていないのだから、本を読みさえすれば誰にでも同じことができるはずだ。

ホラリーでもネイタルでもハウスは「流動的」である
たとえば配偶者の資産はネイタルでもホラリーでも第8ハウスに表示される。これは、あるハウスに示される人物の資産はそのハウスから数えて二番目のハウスが表すという占星術の基本法則によるものである。したがって、流動的・固定的という観点からは、ネイタル・ホラリーどちらも流動的だと言える。
また、石川氏が父親を第10ハウスとしているのは奇妙である。トロピカルゾディアックを使いつつ、ヒンドゥ占星術におけるハウスの解釈を使っているからだ。さらに、レーガン大統領に関したホラリーで第7ハウスを大統領としているが、レーガン夫人が質問したものではないので、第10ハウスをとるべきであるし、愛犬(ペット)は西洋でもヒンドゥでも第5ハウスではなく第6ハウスである。

成就の時期はハウスカスプに示されるのではない
石川氏は問題を表示するハウスのカーディナル・フィクスト・ミュータブルの分類によって成就の時期をだすやり方を紹介している。私は今までに30冊以上ホラリーの本を読んだが、これは初めて見るやり方だ。残念ながら、私は石川氏が参照しているシルビア・デ・ロンのものだけは読んだことがないから、おそらくデ・ロンのやり方、もしくは石川氏のオリジナルだと想像する。 しかし、成就の時期は天体がいるサインとハウス、そしてそれと関わる天体とのアスペクトの度数差によって判定するのであって、ハウスカスプのサインではない。これはごく一般的なやり方である。もしこれを名人芸と呼ぶなら、ホラリーそのものが名人芸になってしまうだろう。

セパレートのアスペクトも考慮する
セパレートは過去のことを表しているに過ぎない。実際に鑑定をやっていると、過去に起こったこと、あるいは既に起こってしまった可能性のあることについて依頼されることがある。したがって、もしアプライのアスペクトしか見ないとしたら、片手落ちになってしまうのである。 石川氏が理事を務めるAFAのドーン会長が書いた"Astrology of Childbirth"の74ページに友人の出産についての占断例が載っている。ドーン女史はセパレートのアスペクトを考慮して、「既に赤ん坊は生まれており、母子ともに健康」と結論したが、これなどは見事な例である。

以上述べたように、『応用・占星学入門』におけるホラリーの記述には誤りが多いばかりでなく、プロの占い師として西洋占星術を学ぶ者にとっては不適切な教科書である。もっとも、石川氏は純粋な学問として占星術を研究しているのであって、占い師を養成しようという意図はないのだから、これは致し方ないことではある。
しかし、「占星術(学)は事実に基づく科学である」と言うのであれば、単に理論を紹介するだけでなく、実践によるフィードバックによって事実を確認する努力が石川氏にはもう少し必要ではないだろうか。 名人芸だからという理由で、これまで培われてきたものを切り捨てるべきではない。 石川氏自身に事実を確認する余裕がないのであれば、それは後進の研究に任せ、石川氏というフィルターを通っていない情報を提供するのが学者としての良識ではあるまいか。
私のような若輩者に誤りを指摘されたからといって、氏の功績に何ら傷が付くものではないことは私が保証する。改訂版を出すときに訂正すれば済むことだ。石川氏の今後の活躍に期待したい。

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