本 棚

私が読んだ本の中でおもしろいと思ったものを紹介するコーナーを作りました。 気が向いたときに順次追加していきます。 みなさんの参考になれば幸いです。
なお、ここで紹介する本を読む前に"Horary Astrology Rediscovered"と"Christian Astrology"をじゅうぶんに勉強することをお勧めします。
僭越ながら私の主観による3段階評価をつけさせていただきました。

國分秀星 Q.H.P.

『書籍リスト』もぜひどうぞ


Sobre Las Natividades

Albubather

Edicomunicacion
ISBN: 84-7504-088-2

1218年にアラビア語からラテン語へ翻訳されたアルブバテル(875-950)の“De nativitatibus”を現代語に翻訳したものである。 230ページほどの本文が206の章に分かれているため、各章とも文章は短い。 最短の章はわずか5行、最長で数ページだが、ほぼすべてがアフォリズムであり、ページ数の割に内容は濃い。 ただし、誤植と脱字が多い上に、元になったラテン語訳も判読できない箇所があるようで、完全な文章になっていなかったり、難解な箇所が少なくない。 とくに計算を説明しているところで数字が脱落しているのはきつい。

初めの135章は寿命、健康、気性、容姿、職業の傾向など、136章以降は第2ハウスから第12ハウスまでについて書かれている。 アリ・アベン・ラゲルよりも古い時代に書かれているのだが、ドロセウスからの引用が4カ所もあるのに、意外にもトリプリシティルーラーはあまり使わず、ギリシア占星術の影響が薄いように見える。 タームのディレクションを説明している箇所を読むと、使ってるタームはギリシア式ではなく、プトレマイオスのもののようで、それもこの時代としては珍しい。 ハウスシステムは、『月がMCにあって第2ハウスの土星とスクエア』などという記述があることから、プトレマイオスのイコールハウスでもギリシアのサインハウスでもないことがわかる。

ハイレグとアルココーデンについて書かれた章はおもしろい。 ハイレグの決め方はハイレグのハウス位置によって条件が変わるなど、この後の時代よりも細かい。 逆に、アルココーデンのアスペクトに関したことなどは柔軟で制約が少ないため、応用しやすい。 さらに特徴的なのは、アルココーデンの状態と同様に、ディレクションによるハイレグのアスペクトを重視していることで、それによって寿命と死の状態を判定しようとしている。 また、各ハウスに関した事柄を見るのに各種アラビックパートを使い、それがアフォリズムとして書かれているため、ハウス、サイン、ターム、ディスポジターの状態などからどのように判定していたのかが具体的にわかる。

特定の条件下でのみ通用するアフォリズムばかりで、後の時代のように汎用的なルールとしてまとめられていないため、初めのうちは雑然としてとりとめのないものを読まされているような気分になる。 しかし、読み終わってみれば、後の時代に成立したルールの背景にあるものが理解でき、いつの間にかルール以上に汎用的な考え方が身についているのに気づく。 一見遠回りに見えることのほうが得るものが大きく、占星術を学ぶには気の遠くなるような時間が必要だと改めて実感した。

☆☆


I Segreti Di Astrologia Di Albumasar

Sadan

Nino Aragno
ISBN: 88-8419-036-3

『アブ・マシャーの占星術の秘密』というのは何ともそそられるタイトルだが、アブ・マシャーとその弟子サダンの対話を筆記した“Albumasar in Sadan”の現代語訳である。 知り合いのイタリア人に言わせると、翻訳者のベスコビーニは「ギリシア語とラテン語は得意だが、占星術はほとんど知らない」し、この本は「翻訳が良くない」のだそうだ。 だがリン・ソーンダイクの訳と比べても大きな違いは見られないし、読んで理解できないようなところもなかった。 ダグラス・ダンロップがアラビア語写本から翻訳したものを見ればわかるように、そもそもルネサンス期にアラビア語からラテン語に翻訳された際にかなり意訳・省略されているのだから、逐語訳の不自然な文体であっても大した問題ではない。

著者はサダンとなっているものの、会話以外の部分から考えると、実際には第三者が記述したようだ。 対話は主にサダンの質問に対してアブ・マシャーが答える形式で、サダンがアブ・マシャーから聴いた話を間接的に叙述しているところも何か所かある。 アブ・マシャーの回答は、初歩的で突っ込んだところもない質問に対しても細かいところにまで及び、ときには話が飛んで無関係なことを説明したりするので、単純な質問に対してもかなり長い。 「わずかな知識を冗長に説明している」とアリ・アベン・ラゲルが評しているのはこういうところにあるのだろう。 ただし、そうした長い説明が膨大な読書量に支えられているのがうかがえるし、余談の部分のほうがおもしろいことすらある。

話題は気象からネイタルまで幅広く、なかでも恒星とアラビック・パートに関するものが目立つ。 病気のパートはアブ・マシャーが発見したことや、太陽と月が正確にアセンダント/ディセンダント上にあるときのパート・オブ・フォーチューンの解釈は興味深い。 また、他の占星術師からアブ・マシャーが授けられた技法や現存していない本に書かれている内容について述べている部分はたいへん貴重である。 ハイレグやアルココーデンなどのように一般的な占星術のテキストに説明されている事柄よりも、アブ・マシャー自身の経験による具体例や見解のほうが意義深いし、会話として記述されているため鮮烈で印象強い。 アブ・マシャーは起きてから寝るまで1日中ワインを飲んでいたそうで、なかには酔ってサダンをからかっているとしか思えないやり取りもある。

“Albumasar in Sadan”はオリジナルからの抜粋で、原文の5分の1以下しか収録されていないそうだが、この本はソーンダイクが参照したラテン語訳、ダンロップがソーンダイクの訳と比較したアラビア語写本よりも長いようである。 ほぼ全部を収めたギリシア語版があるので、それが翻訳・出版されるのを待つのも手だが、かなり高価なものになるだろうし(€100を越えるかもしれない)、わずか€8.26で買えることを思えば、この本もそれなりに有用だろう。


Les Revolutions Et Les Cycles

Ikhwan al-Safa

Al-Bouraq Editions
ISBN: 2-84161-040-3

Ikhwan al-Safaは「清浄の同胞たち」というような意味で、9世紀後半に52篇からなる科学全集を著した集団である。 この本はそのうちの第36篇の現代語訳で、表題どおりに天体の回帰とその周期、さらに会合が地球上にもたらす影響について述べられている。 通常、回帰と会合はマンデンの分野で扱われるが、そのうちの周期の短いものと生物や鉱物の誕生(生成)・成長・死との関連にも触れるなど、説明は幅広い。

占星術において天体と天球の動きとは時間の経過そのものであり、それらの周期は「月球の下の世界」における国家の盛衰、文化の移動、地形の変化をはじめとした全ての出来事と連動している。 そして、出来事の規模は周期に比例すると「同胞たち」は述べる。

モダンなテキストの中には黄道12サインの特徴を季節の移り変わりに関連づけて説明しているものがあるが、季節が逆転する南半球では理論が破綻する。 これに対して「同胞たち」は、太陽が黄道を移動し、各分至点を通過することによって四季が発生すること、すなわち時間の流れが生まれることを述べるにとどまっているので南半球でも通用する。 12サインの性質については、「同胞たち」が説明するように、ディグニティの違いなどに起因すると考える方が単純で無理がないだろう。

全体的にアリストテレスの影響が強く見られ、プトレマイオスの『アルマゲスト』にも3回言及していることから、「同胞たち」がギリシア天文学(占星術)を素直に受け入れたことがわかる。 春分点の移動を説明するために天球をひとつ追加している以外はギリシア天文学との大きな違いは見られない。 これは、神の意志は人間の行為に表れると考えるイスラム教徒にとって、天体と天球の動きが地上に起きることを支配するというのは自明で違和感のないことだからだろうか。

サイイド・ホセイン・ナスルが部分的に翻訳したものと比べると、数値や時間の単位が違っている箇所が気になるものの、全体として平易に翻訳されていて読みやすい。 『科学全集』には全編に渡って占星術に関する記述が多いそうなので、他の部分も現代語に翻訳されると良いのだが。


El Libro Conplido En Los Judizios De Las Estrellas

Ally Aben Ragel

Gracentro
ISBN: 84-89011-02-8

アリ・アベン・ラゲルが自身を「この本の編集者」と呼んでいることと、この本のタイトルが示しているように、ドロセウス、プトレマイオス、ベッティウス・バレンス、アル・キンディ、マシャアラーをはじめとした占星術師たちの本から重要な箇所を抜き出した百科事典のような本で、現存していない本からの引用も多く含まれているため、その内容は貴重である。 全8冊の内訳は、ホラリーが3冊、ネイタル2冊、ソーラーリターン、イレクション、マンデンがそれぞれ1冊ずつで、合計すると1200ページを越える。

この本を読んで最も印象的なのは、これが書かれた10世紀後半から11世紀前半にはまだギリシア占星術の理論が濃厚に残っていることで、各ハウスが象徴するものを3つのトリプリシティルーラーに振り分けたり、月をアセンダントとみなして各ハウスについて考えるなどといったやり方が随所に見られる。その一方で、火星をフェミニンに分類するイスラム的な発想があったり、インドの占星術師からの引用も散見したりと、中世イスラム圏でさまざまな文化が融合したことを目のあたりに実感できる。

文語体に翻訳されているため、文章は難解で、他の翻訳と並べて読まないと理解できない部分、どちらを読んでも論理的に意味が通じない箇所(明らかに原文の間違い)もあるが、内容そのものはサールほどは難しく感じられない。書かれた年代の違いもあるだろうが、自身の経験から得られた見解も示していることから、アリ・アベン・ラゲルの理解が深かったことによるものだと思われる。

Book IIの第6ハウスについての説明の途中で、プトレマイオス、アル・キンディ、アブ・マシャーを批判しているところは興味深い。プトレマイオスとアル・キンディに対しては論理的な矛盾を指摘し、「アル・キンディは深く理解しているのに説明が短すぎて不明瞭だが、その反対にアブ・マシャーはわずかな知識を冗長に説明しているだけ」と述べている。「夜中に薪を集めに行く男のようなもので、良いものも悪いものも集めてくる」というのがアリ・アベン・ラゲルのアブ・マシャーに対する評価である。

真理を追究するなら、間違いは間違いと言わなくてはならない。間違いを黙って見過ごしたり、中途半端にしか追求しないのであれば、それはただのお遊びにしか過ぎないだろう。アリ・アベン・ラゲルの姿勢に強く共感する次第である。

☆☆


Sobre Las Interrogaciones

Sahl ben Bixr

Ediciones Teorema
ISBN: 84-7604-050-4

バビロニアから現代までの占星術を一通り学ぶと、大きな節目が3つあることに気づく。 ホロスコープ占星術が成立した紀元前3〜2世紀のギリシア、8世紀以降のアラブ、16世紀以降のイギリスであり、ギリシアで発祥したものがイスラム世界では進化しているのだが、中世イスラム圏の占星術師と比べると、ウィリアム・リリーなどはかなりモダンな占星術になっていることがわかる。 占星術の簡略化は既に16〜17世紀に始まっていたと言って差し支えないかもしれない。

たとえば、リセプションとは自分のディグニティにある天体からのアプリケーションであることをサールは明確に定義しているが、時代を経るごとにリセプションの定義が変わっていく。 書かれた年代順に本を読んでいくと、少しずつ言葉が抜け落ち、それが誤解を生んでいく過程を確認することができる。 占星術が次第に簡略化されてしまったのは、こうした「伝言ゲーム」に遠因があると思う。

反面、各ハウスが意味する事柄については分類が不十分なところがあり、子どもが第11ハウスとなっているのはプトレマイオスの時代と同じである。 サールの時代にはまだインドの占星術が混入しておらず、ギリシア・ローマから受け継がれたホロスコープ占星術が純粋に受け継がれたからだろう。 (なお、サールが使っていたハウスシステムは、この本を読む限り、ホールサインハウスである。)

翻訳はかなりいいものだと思うのだが、前後の文章を参考にしたり、他の本と比較してようやく理解できるという文章がいくつかあるし、また、明らかに翻訳時もしくは編集時のミスだとわかる誤りも見受けられる。 紙の質が良くないために印刷が不鮮明で判読しづらいページもあり、読むにはかなり時間がかかる。 しかし、サールの本で今でも手にはいるのは、アンティークを除いては、グラスゴー大学が出版した"De Electionibus"(アラビア語原文とラテン語訳)とこの本だけなので、ありがたいと思うべきだろうか。

☆☆


Traite Des Revolutions Solaires

Junctin de Florence

Editions des Cahiers Astrologiues
ISBN: -----

ジャンクタイナスの大作"Speculum Astrologiae"はその大部分が翻訳されずに残っているが、これはその中から未来予知に関する部分を抜き出して翻訳したものである。 項目としては、パート1がロード・オブ・ザ・イヤー、ディバイダー(パーティション)、フィルダリア、ロード・オブ・ザ・レイ、プロフェクション、ロード・オブ・ザ・サークル、トランジットなどについての説明、パート2がソーラーリターンから具体的な事柄について見る方法と実践例、パート3が格言集と用語の定義となっている。

未来予知とは、どういうことがいつ起きるのか、つまりその内容と時期を見ることであるが、内容についてはヘルメス、ファーミカス、アベンラゲルからの引用であり、たいへん要領よくまとめられている。特筆すべきなのは時期の出し方であろう。プロジェクトハインドサイトやロバート・ゾラーその他の翻訳はすべて読んだが、そのうちのどれにも書かれていないタイミングの取り方、時間分割のやり方が述べられているのだ。 実際に起こったイベントと照合してみると、今まで知っていたやり方では出なかったタイミングがすべて一致したので、思わず鳥肌が立った。

ジャンクタイナスは、先人の英知を継承しつつも、自分の経験から得られた見解を述べており、それを実際に照合してみると的確に当てはまることから、実践の面でたいへん優れていた人であることがうかがえる。こういう人が書いた本は非常に貴重である。 翻訳物なので、意味の取りづらい箇所はあるが、ジャンクタイナスの説明自体は理路整然としており、あいまいな部分は一切ない。 この本の全体が翻訳されていないのが残念である。

この本の冒頭に、日頃私が考えていることと同じことを言っている箇所があったので、占星術を学ぶ人のために引用しておく。

If, after having studied the works of the astrologers, you work, you will know the nature of the things better, but you will have to pain if you want to become skilful in this science.

☆☆☆



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